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3章 学校における環境音楽に関する調査と実験
1節 環境音楽実践校での面接調査
研究目的に従って私がおこなった環境音楽実践校の実態・方法の調査結果を報告する。
(1) 実践校を探す
インターネット上で環境音楽を実践していると広報しているF高校に事情を聞いたところ、ある父母の「昼休みの自主的な勉強に差し障る」という強い抗議がもとで、環境音楽は中止しているとのことである。(40)
20年以上も前に、D高校で実戦を始めたG教諭によれば、「生徒に落ち着きを求めるため音楽を流して、校内的には好評だったが、毎日一定の朝の時間に手動で音楽を流すことが困難になり、1年続かなかった。放送委員の生徒に依頼したが、それも続かなかった。音楽は、生徒たちが中学時代に鑑賞したことがあるヴィバルディの『四季』を使用しました。」ということである。
E高校では、「製図の実習時に、音楽を流していて教員や生徒には好評だったが、プレーヤーが盗難にあい、中止になった」ことがわかった。
埼玉県の県立高校で現在実践している2校(A校とC校)での面接内容は以下の通りである。
(2)埼玉県立A高等学校の実践と担当教諭への面接調査
A校で環境音楽を提案したO先生と、それを引き継いで現在実践している中心のS先生は、インタビューに答えて次のように話してくれた。
「A校では10数年間、朝(8:10から8:25)にクラシック音楽を流しています。当初は音楽に よる情操教育を考えました。音楽科に属し、視聴覚の分掌である教員が、職員会議に提案し、了 承されたものでした。場所は、廊下と各HRと図書館とモニターとして音楽室に音楽を流してい ます。玄関とか校庭とかに流すこともあったのですが、周辺の住宅へのことを考えてやめていま す。時期的にも定期考査の1週間前から考査終了まではやめています。
生徒は落ち着いていて、中退者もほとんどいない校風です。音楽による効果を調べたことはな いが、苦情等もありません。音楽に対する教員の理解はあります。
音の大きさは話し声が邪魔にならない音量にしています。体育館などでこちらが大きい音を出 すと生徒も大きい声を出すことがあり、あまり大きい音を出しても効果がないのではと思います。 15分で組み合わせた曲をCDにして、それをかなり長い期間つづけてながします。聞かれるこ とが目的ではなく、雰囲気作りが目的ですから、いつも同じ曲が流れていると、その曲になじん で意識しなくなりますよね。だからその方がいいと思います。最低半年くらい、できれば入学時 から音楽が鳴っているなら、生徒は音楽をあたりまえと思い、よいものを呼びおこすのではない かと思う。」
尚、その他のS教諭とのインタビューの詳細については、以下に記す。(41)
「質問 いつ頃から環境音楽を学校に流すのを始めましたか
S教諭 10年以上前、O先生が提案して始めました。わたしはその後を引き継いで担当をしています。
質問 実施主体は何ですか
S教諭 現在は、実施は音楽教諭の私に任されています。注意としては試験の1週間前になったら音を止めます。朝早く来る生徒の勉強に対する集中力のことを考えてやめています。
タイマーであさ8:10より8:25までかけています。8:30から職員会議があります。本当はHR直前までやって、音楽が終わったところで担任が入ってくるのが一番良いのではないかと思うのですが。
場所は、廊下と各HRと図書館とモニターとして音楽室に音楽を流しています。玄関とか校庭とかに流すこともあったのですが、周辺の住宅へのことを考えてやめています。大きい音で流さないように音を調節するのが、機械の問題で難しいものですから。
音の大きさは話し声がじゃまにならないようにしています。体育館などで教員が大きい音を出すと生徒も大きい声を出すことがあり、あまり大きい音を出しても効果がないのではと思います。
質問 スピーカの数や質はどう考えますか
S教諭 現状にあわせてやっています
質問 音のストックはあるのですか
S教諭 O先生の時は、世界の名曲アルバムを流していました。私は私の持っているCDから選んで、セットしています。
質問 同じ曲をどのくらいの期間流すのですか
S教諭 15分の組み合わせた曲をいったん決めたら、それをかなりつづけます。聞かれることが目的ではなく、雰囲気作りが目的ですから、いつも同じ曲が流れていると、その曲になじんで意識しなくなりますよね。だからその方がいいと思います。
質問 曲を選ぶ方針はあるのですか
S教諭 BGMですから、何か話をしている人や考えている人の邪魔にならないものを選びます。できるだけ穏やかな音楽で、音量変化の少ないもの、不協和音などの不快な音の少ないものです。
質問 不協和音は人によって違うのではないですか
S教諭 確かにあります。
質問 ジャンル的にロックをさけたりしますか
S教諭 結果的に今は古典派とバロックが多くなっています。ポップスだとリズムでかなりインパクトがある曲が多いんです。歌詞が入るとそこに注意がいってしまいますから、BGMとしては歌詞のついてないものを考えます。ポップスではなかなかないんです。
生徒の気持ちを盛り上げるために、体育祭の前とか文化祭の前とかには、インスツルメンタルとしてのポップスをBGMに使うことはあります。時々に応じてですね。
質問 音楽に個人の好みがあり、苦情とかないですか
S教諭 確かにポピュラー音楽とか現代音楽とかは好みが分かれると思います。音楽の授業でも曲によって生徒の聞く集中力は違いますから。
質問 勉強の意欲が高まることを環境音楽で期待できますか
S教諭 音楽だけでは無理だと思いますけれど、環境の一つとしてすごく有効だと思います。例えば教室で机が乱れていると、生徒の気持ちもいらだちますよね。きれいな教室は生徒の気持ちを落ち着かせるのに意味があると思います。その時にプラス音楽があればもっと効果があると思います。いろいろなファクターの一つとして、良いと思います。
BGM的に音楽を聞くことはそれなりに効果があると思います。音楽の影響って大きいと思います。
集団の状態が良くなる可能性は十分考えられます。理由まではつきつめて考えたことはありません。音楽が安らぎを与えたり、気持ちを奮い立たせたりすることは経験的にはわかっています。そういう効果の理論的裏付けがないだけであって、まるっきりわかっていないというのは何か考え方として違うと思います。
質問 授業中にやることの可能性については
S教諭 やり方が非常に難しいでしょう。音楽はひとの意識を向けてしまいます。40人近い生徒に、音楽を全く意識させないのは難しいかもしれません。
質問 若い人には坂本龍一とかの音楽を使ったらという考えはどうでしょうか
S教諭 それはそれで良いものがあるでしょう。ただクラシック音楽は歴史に洗われて残った音楽です。今のポピュラー音楽は250年前の音楽の和音とそんなにちがわないものを使っています。現代の前衛音楽はずっと進んでいますが。今,音楽が専門でない人が自然に聞けるのはせいぜいモーツァルトくらいの時代の和音で、前衛曲はせいぜいCM等の効果音に使われるくらいですよ。
作曲家はいろいろ実験して作るけど、音楽を専門としない普通の人が聞いて、良いと思ったものだけが残るんですよ。やはり歴史に洗われた音楽の方がいいのではないかと思います。
環境音楽、癒し系音楽がたくさん商品としてでましたが、あれでなくても良いかなあと思います。
質問 選んだ曲のパターンによって何となく雰囲気が変わることはありますか
S教諭 そこまではわからないです。
質問 朝に、ポップスをかけるのと、クラシックのバイオリン協奏曲をかけるので影響が違うでしょうか
S教諭 違いがあると思います。
質問 A高校に赴任して来て音楽の影響だなと感じたことはありますか
S教諭 わからないです。
質問 環境音楽がよいかどうかの基準はありますか
S教諭 すぐに音楽の効果が出るのではなく、長くやっていて、教員が判断するしかないかと思います。
時間を超えて残ってくる音楽は共通するものがあります。安心して聞かれる音楽に共通するものが、あるいは「1/fゆらぎ」というものかもしれません。でも基準はあまり数学的に解析できるものではないのではないかなあ。
のこぎりの波形の音は聞いてみるときついかんじです。トランペットよりクラリネットやフルートなどの方がサイン波に近いので、波形がきつくなく安心して聞けるのかなあと経験的には思いますが、理論ではわかりません。
質問 やっていることの評価評判はいかがですか
S教諭 曲名を聞かれたり、時々設備の関係で流れなかったときに今日はどうしたかと聞かれます。学内では受け入れられています。
昼休みの時間は放送部の生徒が曲をかけていますが、どうしても自分の好きな曲になり、どうしても音量が大きくなります。そんな時、たまに教室に行ってみますと、うるさいという気がします。音楽が鳴っていることが苦痛になってきます。私は音楽はポップスも嫌いではなく聞きますが、ああいう昼のやり方だと何か押しつけられている気がします。
質問 環境音楽が仮に良いものだとしても押しつけても良いのか、という考えにはどう思いますか
S教諭 私はA高校の70周年記念式典のために、3曲作りました。入場の時は派手なもの、授与式の時はフルートを中心のもの。退場の時の曲は拍手の中できれいに響く、穏やかな曲を書きました。その場にあわせたものをやらないとだめですね。その曲は卒業式が近くになると、朝の放送で流すこともあります。広める場合は、指導としての位置づけも必要でしょうね。
質問 何十年も前から、工場ではかなり環境音楽の評判がよく、最近では病院でも広く使われていますが、なぜ日本の学校ではやらないのでしょうか
S教諭 全体に改めて提案するときは、マイナス面もないわけではないでしょう。例えば仕事の邪魔になる人もいるだろうし。何かやろうとしたときは、そうはいかない場合も結構ありますから。
質問 仕事の邪魔になるといわれたことがありますか
S教諭 文化祭の前で授業のない日などに、にぎやかな曲をかけると、仕事のじゃまだとはいわれないけれど、今日はうるさかったねといわれたことがあります。A高校の先生はクラシック系の曲が好きな人が多いですから。」
以上のように、10年以上環境音楽を朝かけているA高校のS教諭の発言は示唆に富むものであった。音楽が流れていることがあたりまえになっている環境で、無理なく雰囲気作りをしていく方針のようである。選曲の方針・実施方法は、学校で実施する場合に参考になる。
(3)埼玉県立C高等学校での面接調査
C高校のH教頭は、C校の環境音楽について、インタビューに答え、以下のように話してくれた。(42)
「C校では、平成12年11月より流しています。教頭研修会で日本環境研究所長の宮澤正安先 生から音楽療法のことを聞きました。
体育科の教員というのは、体育祭など行事や、練習の時、アップテンポの曲がやる気を鼓舞す ることを経験的に知っています。バスケの練習中でも実業団クラスだとかなりのチームが環境音 楽を利用しています。だから鎮静のほうも効果があるのではないかと思い、講演のすぐ次の日か ら私費でCDを買って、1学年から始めました。
生徒が落ち着くことをねらいに、朝、手動でCDにより校内放送を使いクラシック音楽を流し ています。遅刻が多い状況で、学校としてはできることは何でも、雰囲気作りもしなければなら ないと思います。
掃除の時間と帰宅の時間もやりたいが、できていません。遅刻数の減少は今のところあらわれ ていません。教員の音楽に対する評判はよいです。生徒に聞いたデータはありません。」
環境音楽という意識で音楽を流している学校は少ないようである。平成13年4月より新しい取り組みとして全校に音楽を流すことになったC校の実践に注目したい。
また生徒が昼休みに、自分たちの聞きたい曲や紹介したい曲を大音量で流している時の問題点を指摘する発言が、複数の高校の教員から話しがあった。
2節 環境音楽の生徒への心理的影響に関する準備調査
この節と次節では、2校の生徒に私が実施した環境音楽の実施内容と、アンケート調査の結果を報告する。
全体の目的としては、環境音楽を朝のHR前に2週間から4週間程流した場合に、生徒が自分の気持ちやクラスの雰囲気をどう評価するかを尋ね、音楽の生徒への心理的影響を調べることである。一連の調査により、環境音楽の効果と生徒指導への可能性を探るのが本節の調査の目的である。
(1)調査校について紹介
県立A高等学校 普通科課程 共学 24クラス 生徒数965名
就職は1学年で20名くらい、中退する生徒もほとんどいない。A校は県立高校として伝統もあり、中堅の地方の学校である。A校は3章1節(2)で面接調査した高校である。A校では過去10年以上に渡り、主にクラシック音楽を朝流している。実験期間中もA校ではクラシック音楽を流した。
県立B高等学校 専門科課程 共学 15クラス 生徒数495名
年度によって異なるが、B校では中退者が多い傾向がある。B校には音楽配信会社による環境音楽を流した。
基本的な質問は気持ちを尋ねるもので、たとえば「1快適 2やや快適 3変わらない 4やや不快 5不快」の中から五肢択一で、答えるものである。[快適−不快]、[気持ちが軽い−重い]、[安らぐ−落ち着かない]の3つの感情要素についてたずねる。各アンケートの質問の詳細は、論文末の参考資料にある。
これらの質問紙を、各校のHR担任の教員にお願いし、生徒に書いてもらい回収してもらった。回収したデータはエクセルで集計し、対応のあるt検定については、フリーソフトの「統計JSTAT 6.9」を利用した。
(2) 7月のA校での調査
ア 目的、
次の4点について調べる
1,回答者が音楽にどのような印象を持っているか
2,8:45からSHRが始まるが、8:10〜8:25までしか環境音楽を流していない状況なので、調査対象者のうち、8:25までに来る人はどれだけいるか
3,以上の回答に対し、男女別、音楽の選択の有無別の偏りがあるかどうか
4,音の大きさに対する印象
イ 調査の方法
回収期間、2001年6月28日から7月4日でアンケートをおこなう。配り始めてから回収まで10分くらいかかる。
ウ 回収者数
1年生の選択の音楽の時間で、3クラスで回収 126人回収
2年生3クラスを国語の時間に回収 114人回収
3年生の選択の音楽の時間で、1クラスで回収 30人回収 計270人回収
調査時ではモーツァルトの交響曲40番を流していた。
エ 基本データ
A校の生徒にアンケート調査をした。270名の回答の結果は次の通りである。
質問1 あなたの学年とクラスを書いてください |
|
|
|
組 |
|
|
|
|
|
|
|
|
学年 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
総計 |
1 |
14 |
14 |
14 |
14 |
14 |
14 |
21 |
21 |
126 |
2 |
|
38 |
38 |
37 |
|
1 |
|
|
114 |
3 |
4 |
6 |
5 |
3 |
4 |
8 |
|
|
30 |
総計 |
18 |
58 |
57 |
54 |
18 |
23 |
21 |
21 |
270 |
|
|
質問4 |
|
|
|
音楽を選択している |
196 |
|
音楽を選択していない |
73 |
|
無答 |
1 |
|
計 |
27 |
|
質問5 8時25分までに教室に来ることはどのくらいありますか
いつもくる 1 |
27 |
10% |
たいていくる 2 |
21 |
8% |
時々くる 3 |
43 |
16% |
ほとんどこない 4 |
77 |
29% |
まったくこない 5 |
102 |
37% |
総計 |
270 |
100% |
|
34% 約3人に一人が、(いつも・たいてい・時々=時々以上)は朝8:25までに来ている。「ほとんどこない」と「全くこない」が66%いる。
|
|
質問6 教室では8:10ころより8:25まで音楽が鳴っています。教室に入ると気
いつも気がつく 1 |
23 |
9% |
がつきますか
|
時々気がつく 2 |
51 |
19% |
全然気がつかない 4 |
24 |
9% |
遅いからわからない 5 |
151 |
56% |
計 |
269 |
100% |
無答 |
1 |
|
|
質問7 教室で音楽が鳴っている時に、次の中からあなたの気持ちに最も当てはまるも
快適 |
18 |
7% |
のを選んでください。 |
やや快適 |
44 |
16% |
|
変わらない |
46 |
17% |
|
やや不快 |
3 |
1% |
|
不快 |
2 |
1% |
|
聞かないのでわからない |
157
|
58%
|
|
総計 |
270 |
100% |
|
質問7で、「聞かないのでわからない」人を省いて集計すると以下の通り
55%が「快適」と「やや快適」と感じ、多いことがわかる
快適 |
18 |
16% |
|
やや快適 |
44 |
39% |
|
変わらない |
46 |
41% |
|
やや不快 |
3 |
3% |
|
不快 |
2 |
2% |
|
総計 |
113 |
100% |
|
質問8 教室で音楽が鳴っている時に、次の中からあなたの気持ちに最も当てはまるも |
軽くなる |
18 |
7% |
のを選んでください。
|
やや軽くなる |
45 |
17% |
変わらない |
49 |
18% |
|
やや重くなる |
4 |
1% |
|
重くなる |
1 |
0% |
|
聞かないのでわ
からない |
153
|
57%
|
|
総計 |
270 |
100% |
|
質問8で、「聞かないのでわからない」人を省いて集計すると以下の通り
53%が気分が「軽い」または「やや軽い」と答え、多いことがわかる
軽くなる |
18 |
15% |
|
やや軽くなる |
45 |
38% |
|
変わらない |
49 |
42% |
|
やや重くなる |
4 |
3% |
|
重くなる |
1 |
1% |
|
総計 |
117 |
100% |
|
質問9 教室で音楽が鳴っている時に、次の中からあなたの気持ちに最も当てはまるも
安らぐ |
23 |
9% |
のを選んでください。 |
やや安らぐ |
38 |
14% |
|
変わらない |
50 |
19% |
|
やや落ち着かない |
3 |
1% |
|
落ち着かない |
1 |
0% |
|
聞かないのでわからない |
155
|
57%
|
|
総計 |
270 |
100% |
|
質問9で、「聞かないのでわからない」人を省くと53%が「安らぐ」または「やや安らぐ」
安らぐ |
23 |
20% |
と答え、多いことがわかる |
やや安らぐ |
38 |
33% |
|
変わらない |
50 |
43% |
|
やや落ち着かない |
3 |
3% |
|
落ち着かない |
1 |
1% |
|
総計 |
115 |
100% |
|
質問10 教室の朝の音楽の音の大きさについて、あなたはどう思いますか
|
|
|
大きすぎる |
1 |
0% |
やや大きい |
3 |
1% |
ちょうどいい |
46 |
17% |
やや小さい |
44 |
16% |
小さすぎる |
11 |
4% |
聞いていない |
165 |
61% |
総計 |
270 |
100% |
|
音が大きすぎるという気持ちを持つのは3名5%だけである。
|
|
オ 結論と考察
音楽が終了する8:25までに「ほとんどこない人」・「全くこない人」を除くと、“音楽を聴いたときの気持ち”を聞く質問7で、50数%の人が「快適」、40%ほどが「変わらない」、5%が否定的な回答である。音楽を聴いたときの[気持ちが軽いー重い]を聞く質問8では、53%が気持ちが「軽くなる」、42%が「かわらない」、4%が気持ちが「重くなる」と回答している。音楽を聴いたときの気持ちの[安らぐー落ち着かない]を聞く質問9では、53%が「安らぐ」、43%が「かわらない」、4%
が「落ち着かない」と回答している。
「聞かないのでわからない」という回答の原因は、主には、音楽が鳴っている時間に登校していないことが原因と考えられる。66%の人が、音楽が終了する時間までにほとんどまたは全く来ていない。
本人が音楽が鳴っているときの気分を評価するとき、「聞かないのでわからない」という回答者をのぞけば、肯定的な評価を4割以上の人が選んでいる。否定的な答えが少ないことも示唆的である。
肯定的な回答の数字が4割以上という点から考えて、環境音楽がかなりの程度受け入れられていると考えられる。
これらは、教育の場で環境音楽に対する生徒側の評価として基礎的な資料となる。
ただしこの気分は、音楽が原因かどうかはこのアンケートからはわからないし、当然のことに、否定的な回答も若干ではあるが存在する。
カ 音楽教科選択の有無と気分の回答との関連分析の結論
質問4と質問7・質問8・質問9とのクロス集計表を作り、分析をおこなった結果では、音楽科目の選択の有無が、環境音楽が鳴っているときの気分の評価に影響を与えていると判断はできない。今回の調査では、環境音楽の影響における音楽の質や、個人の好みの要因を分析する計画になっていない。よって、以後の調査においては、調査対象者の音楽選択の有無は調べないことにする。
詳細は、「補足の第3章(1)」に載せる。
キ 男女別の回答の偏りの調査の結論
また環境音楽が鳴っているときの男女別の気分を調べると次のようになる。
270人 質問3と質問7のクロス集計分析 |
質問3
|
快適
|
やや快適
|
変わらない
|
やや不快
|
不快
|
聞かないのでわからない |
総計
|
男 |
4 |
23 |
18 |
2 |
1 |
64 |
112 |
女 |
14 |
21 |
28 |
1 |
1 |
93 |
158 |
総計 |
18 |
44 |
46 |
3 |
2 |
157 |
270 |
質問7での「6聞かないのでわからない」という157人の回答をのぞき、質問7と質問3の回答をクロス集計し、カイ二乗検定をおこなうため、度数が5以下にならないように再構成すると、下の表になる。
|
質問7 |
|
|
質問3
|
快適+やや快適
|
変わらない+やや不快+不快 |
総計
|
男 |
27 |
21 |
48 |
女 |
35 |
30 |
65 |
総計 |
62 |
51 |
112 |
帰無仮説を「男女の標本は、共に同一の母集団から、ランダムに抽出された。2群間に度数分布の差はない」とし、カイ二乗検定をおこなうと、[自由度1、カイ二乗値=0.004 、生起確率p=0.9501(イェーツの補正後)]となる。「 カイ二乗の生起率が高いので、帰無仮説は有意水準1%で正しい。質問を再構成した限りにおいて質問7の答えに男女の偏りはない。」という結論になる。
ク 音の大きさについての結論
質問10で、「聞かないのでわからない」回答を省いて再集計すると以下の表の通りである。
「聞いていないのでわからない」という人をのぞいた105人で分析すると、「大きすぎる」と「やや大きい」が4%、「ちょうどいい」が44%、「やや小さい」と「小さすぎる」が52%である。この再生音量は、この学校で長年使ってきた音量である。「適正な音量以下」とするものがほとんどである。この音量が受け入れられていると考えられる。
大きすぎる |
1 |
1% |
やや大きい |
3 |
3% |
ちょうどいい |
46 |
44% |
やや小さい |
44 |
42% |
小さすぎる |
11 |
10% |
総計 |
105 |
100% |
この実験には以下に述べるようなさまざまな限界もある。
音楽に気がつかない人への影響と、学校に来るのが遅いので音楽を聴かない人の影響の区別が、この調査からはわからない。質問7・質問8・質問9の質問では、音楽が原因であらわれた結果かどうかはわからない。
音楽の質がどういう影響をもっているかという点が抜けている。また音楽療法にとって重要な「同質の原理」も全く検討できない。
しかし、「オ 結論と考察」で述べたように、多くの生徒がこの音楽を評価しており、音楽がこの学校で、受け入れられていると判断できる。
(3) 9・10月のA校での調査
9・10月に、8:10から8:45まで、A校全体に音楽をかけ、全校生徒にアンケート調査をした。“朝教室にいる時の気持ちの動き”を、3つの感情要素で尋ねた。「変わらない」とするものが、全体の60から70%を占め、肯定的な気持ちも否定的な気持ちも約20%であり、おおむね偏りがない。通学電車の関係で最後の数分に登校する人のうち410人は、音楽にほとんど気がついていないことが影響している。
教室の雰囲気をみて、音楽はいい影響があると答えた人が、全体(818人)の34%(277人)、悪い影響があると答えた人が1%(8人)で、「変わらない」が38%、「わからない」が27%である。今後も音楽が流れることの賛否を聞いたところ、「流れた方がいい」が26%、「流れない方がいい」が5%、「どちらでも良い」が53%である。
参考資料(2)に質問用紙と回答の一部を載せた。
(4) 9・10月のB校での調査
B校(全日制職業科)で9・10月に朝音楽を流し、「音楽が流れているときの気持ち」を尋ねた。まとめると[快適ー不快]の感情要素で、約18%の人が「快適」、50%ほどが「変わらない」、約9%が否定的な回答である。20%の人が「聞かないのでわからない」と回答した。[軽いー重い]・[安らぎー落ち着かない]の感情要素の質問でも同様な傾向である。
教室の雰囲気に対して、「いい影響がある」とするものは25.2%、「悪い影響がある」とするものは、3.2%、「変わらない」とする回答は48.9%である。
音量が大きすぎるという回答が多かったので、騒音計で調べたところ、調査時の音楽は教室の中央で約70dbから80dbで鳴っていた。教室の環境音楽として強すぎるので、以後音量を弱くした。
参考資料(3)に質問用紙と回答の一部を載せた。
3節 環境音楽の生徒への心理的影響に関する本調査
(1)11月のA校での母平均の差の調査
ア 目的
高校における、生徒指導の新しい可能性を探るため、朝の環境音楽が生徒の気持ちにどのような影響を与えるのか、アンケート調査によって調べる。
イ 音楽を流す期間・時間と場所
朝8:23から8:43まで、タイマー装置で、期間中は毎日流した。各階ごとに鳴る期間とならない期間を設定し、教室のみに流した。音楽を流すのは教室の前方に1カ所だけ有るスピーカーからである。流した場所と期間は以下の通りである。
|
|
第1期(10/27から11/22) |
第2期(11/19から12/1) |
1階 |
音楽が流れる |
音楽が流れる |
2階 |
音楽が流れる |
音楽が流れない |
3階 |
音楽が流れない |
音楽が流れる |
4階 |
音楽が流れない |
音楽が流れない |
|
|
ウ 音楽の種類
次の曲をCDRに編集し、毎日同じ順で1回流した
チャイコフスキーの弦楽セレナーデよりワルツ
ベートーベンのメヌエット
ポッケリーノのメヌエット
ハイドンのセレナーデ
モーツァルトのメヌエット
エ アンケート調査
別紙(参考資料(4)に質問と回答の一部がある)のアンケートを第1期と第2期の期間中、任意の担任に依頼しておこなう。アンケートの調査期間は、第1期は11/2から11/22、第2期は11/28から11/30である。主な質問は、「最近一週間くらいで、朝教室にいるときの気持ちの動き」を5者択一等の形で尋ねた。
オ 対象者
学年(1桁)・組(1桁)・任意に書いてもらった数字(4桁)・男女のコード番号(1桁)をつなげて、7桁の数字を作る。7桁の数字が等しければ、同じ人間であるとする。
2回のアンケートを同じ人が、全て正しく記入している場合を対象とする。ただし質問4で、2回のうち1回でも「4(8:45以後に登校する)」と答えた人はいなかった。対象者総数は89名であった。
カ 分析法
分析のため3つの感情要素に対するカテゴリーデータを以下の表のように数量データに変換する。それを音楽のある条件とない条件で、対応のあるt検定をおこない、差があるかどうか調べる。
カテゴリーデータ
|
質問5 |
快適 |
やや快適 |
変わらない |
やや不快 |
不快 |
質問6
|
気持ちが軽くなる |
やや気持ちが軽くなる |
変わらない
|
やや気持ちが重くなる |
気持ちが重くなる |
質問7
|
安らぐ
|
やや安らぐ
|
変わらない
|
やや落ち着かない |
落ち着かない |
数量データ |
|
1点 |
2点 |
3点 |
4点 |
5点 |
キ 結果
|
|
気持ちの快適さ不快さ |
気持ちの軽さ重さ |
安らぎ落ちつかなさ |
|
音楽有 |
音楽無 |
差 |
音楽有 |
音楽無 |
差 |
音楽有 |
音楽無 |
差 |
件数 |
89 |
89 |
89 |
89 |
89 |
89 |
89 |
89 |
89 |
平均 |
2.966 |
3.112 |
-0.146 |
2.944 |
3.022 |
-0.079 |
2.989 |
2.989 |
0 |
標準偏差 |
0.682 |
0.665 |
0.649 |
0.530 |
0.621 |
0.626 |
0.612 |
0.574 |
0.544 |
|
気持ちの快適さ不快さ t-value=-2.1211,f=88,p=0.0183,
気持ちの軽さ重さ t-value=-1.1859,f=88,p=0.1194,
安らぎ落ちつかなさ t検定しない
上記の表は、A校の対象者において、3つの感情要素ごとに、音楽のある条件時と、音楽の無い条件時とその差のデータをまとめ、対応のあるt検定(片側検定)をおこなったものである。
グループ別対象者数はRグループが35名、Sグループが54名である。
「音楽のある条件と音楽のない条件で、登校した教室における気持ちの[快適−不快]を5段階に点数化したものについて、対応のある母集団の差の検定をすると、有意水準5%で有意差あり」との結論がでた。89人の同じ生徒は音楽が有るときには、無いときに比べ、気持ちが「快適」と答える傾向があることがわかった。「環境音楽が生徒たちの気持ちを快適にする効果」の可能性が示唆された。
その他の項目では有意差はない。[気持ちの軽さ−重さ]については、危険率が11.94%で有意な傾向があるとは言えないが、10%の分岐点に近い数字である。
(2) 11月のB校での母平均の差の調査
ア 目的
高校における、生徒指導の新しい可能性を探るため、朝の環境音楽が生徒の気持ちにどのような影響を与えるのか、アンケート調査によって調べる。
イ 音楽を流す期間・時間と場所
朝8:20から8:40まで、タイマー装置で、期間中は毎日流した。各階ごとに鳴る期間とならない期間を設定し、教室のスピーカーのみから音楽を流した。スピーカーは教室の前方に1カ所ある。教室で音量の調整はできない。流した場所と期間は以下の通りである。
|
|
第1期(11/6から11/17) |
第2期(11/19から12/1) |
1階 1年生 |
音楽が流れる |
音楽が流れる |
2階 2年生 |
音楽が流れない |
音楽が流れる |
3階 3年生 |
音楽が流れる |
音楽が流れない |
|
|
ウ 音楽の種類
竃日映像音響システムが提供する環境音楽を流した。曲の内容は主にアメリカのポピュラー音楽やイージーリスニングの曲などを環境音楽として編集した音楽である。毎日違う曲である。
エ アンケート調査
アンケート(参考資料の(5)に質問用紙と回答の一部がある)を第1期と第2期の最後に、任意のHR担任に依頼して生徒に実施する。アンケートの実施回収期間は、第1期は11/15・16・17の3日間、第2期は11/29・30、12/1の3日間である。生徒は2回のアンケートに答える。主な質問は、「最近一週間くらいで、朝教室にいるときの気持ちの動き」を5者択一等の形で尋ねた。
オ 対象者
学年(1桁)・組(1桁)・任意に書いてもらった数字(4桁)・男女のコード番号(1桁)をつなげて、7桁の数字を作る。7桁の数字が等しければ、同じ人間であるとする。
2回のアンケートを同じ人が、全て正しく記入していれば、分析対象者とする。ただし質問4で、2回のうち1回でも4(8:41以後に登校する)と答えたものは、音楽が流れているときに教室にいないことになるので、対象から除く。その結果分析対象者総数は56名である。
カ 分析法
分析のため3つの感情要素に対するカテゴリーデータを以下の通り、数量データに変換する。それを音楽のある条件とない条件で、対応のあるt検定をおこない、差があるかどうか調べる。
カテゴリーデータ
|
質問5 |
快適 |
やや快適 |
変わらない |
やや不快 |
不快 |
質問6
|
気持ちが軽くなる |
やや気持ちが軽くなる |
変わらない
|
やや気持ちが重くなる |
気持ちが重くなる |
質問7
|
安らぐ
|
やや安らぐ
|
変わらない
|
やや落ち着かない |
落ち着かない |
数量データ |
|
1点 |
2点 |
3点 |
4点 |
5点 |
キ 結果
対応のあるt検定(片側検定)で分析した結果、「音楽のある条件と音楽のない条件で、朝登校した教室における気持ちの[軽さー重さ]を5段階に数値化した得点に、有意水準5%で有意差あり」との結論がでた。56人の同じ生徒は音楽が有るときには、無いときに比べ、気持ちが「軽くなる」と答える傾向があることがわかった。「環境音楽が生徒たちの気持ちを軽くする効果」の可能性が示唆された。その他の項目では有意差はなかった。
|
|
気持ちの快適さ不快さ |
気持ちの軽さ重さ |
安らぎ落ちつかなさ |
|
音楽有 |
音楽無 |
差 |
音楽有 |
音楽無 |
差 |
音楽有 |
音楽無 |
差 |
件数 |
56 |
56 |
56 |
56 |
56 |
56 |
56 |
56 |
56 |
平均 |
2.964 |
3.036 |
-0.071 |
2.857 |
3.036 |
-0.179 |
2.875 |
2.964 |
-0.089 |
標準偏差 |
0.571 |
0.762 |
0.462 |
0.520 |
0.631 |
0.664 |
0.507 |
0.631 |
0.611 |
|
気持ちの快適さ不快さ t-value=-1.158,f=55,p=0.125,
気持ちの軽さ重さ t-value=-2.013,f=55,p=0.024,
安らぎ落ちつかなさ t-value=-1.158,f=55,p=0.125,
(3)考察
ア いままでのまとめ
アンケートの質問は、朝の気持ちの動きを聞いたものである。音楽を聴いたときの気分を聞いたのではない。その答えを、音楽が流れている条件と、流れていない条件で比較する。環境音楽がB校の生徒の気持ちを「軽くする」ことと、環境音楽がA校の生徒の気持ちを「快適」にすることを、共に促進したことが統計的に確かめられた。(他の感情要素では、危険率が12%程度と少ないものもあったが、統計的には促進したとは言えない。危険率が10%以下なら促進したと言える。)
イ 差が出た原因をさぐる
感情要素の変化の内容が2校で違うのは、流れていた音楽が2校違うことが原因か、それとも聞き手の生徒の違いが原因か、その他の原因があるだろうか。これらを検討するために変化の内容をさらに分析検討する。
A校の分析
音楽のない条件
|
|
1 快適
|
2 やや快適 |
3変わらない |
4 やや不快 |
5 不快
|
計
|
1快適 |
|
△1 |
△1 |
|
|
2 |
2やや快適 |
●1 |
□3 |
△9 |
△1 |
|
14 |
3変わらない |
|
●2 |
□54 |
△3 |
△1 |
60 |
4やや不快 |
|
●1 |
●3 |
□4 |
△3 |
11 |
5不快 |
|
|
|
●1 |
□1 |
2 |
計 |
1 |
7 |
67 |
9 |
5 |
89 |
|
|
上の表は、気持ちが[快適ー不快]という感情要素で、縦の列は「音楽のない条件」の回答で、よこの行は「音楽がある条件」の回答をまとめたものである。2回のアンケートで、それぞれどのような答えをしたものが何人いるかを示したのがこの表である。
A校においては、「音楽のない条件」と「音楽がある条件」時で比べると、気持ちが「不快」から「快適」な方向(数量データ点の減少の方向)へ動いたと思われる回答をした人が19人(21%)(表に△と記入)、「変わらない」人が62人(70%)(表に□と記入)、気持ちが「快適」から「不快」の方向(数量データ点の増加)へ動いた人が8人(9%)(表に●と記入)である。さらに分析すると、19人のうち、「音楽がない条件」の気持ちが「快適」か「やや快適」なものは1人、「変わらない」という回答が10人、「不快」か「やや不快」という回答が8人である。
89人の「音楽のある条件での得点の和」は264点、「音楽のない条件での数量データ点=得点の和」は277点である。対応のあるt検定では、「音楽のある条件」「音楽のない条件」で、感情要素の得点に統計的には有意な差が出た。「音楽のある条件」と「音楽のない条件」で得点の和を比較するとわずか13点の差でしかない。
「音楽のない条件」で「変わらない」と回答した67人中、10人が、「音楽のある条件」では「音楽がない条件」に比べ「不快さが少ない回答をしている」。逆に「不快」さが増える回答は3名。67人の得点の和で比べると、「音楽のある条件」は「音楽のない条件」より8点減である。
同じように「音楽のない条件」で「やや快適」と回答した7人中、「音楽のある条件」では「快適」さが増える回答をしているのは1人(1点減)。逆に「不快」さが増える回答は3名(4点増)。7人の得点の和で比べると3点増である。
同じように「音楽のない条件」で「やや不快」と回答した9人中、「音楽のある条件」では「快適」さが増える回答をしているのは4人(5点減)。逆に「不快」さが増える回答は1名(1点増)。9人の得点の和で比べると4点減である。
同じように「音楽のない条件」で「快適」と回答した1人中、「音楽のある条件」では「やや快適」となり、得点としては1点増である
同じように「音楽のない条件」で「不快」と回答した5人中、音楽のある条件では「快適」が増えるのが4人となり、得点としては5点減である
B校の分析
音楽のない条件
|
|
1 軽くなる
|
2 やや軽くなる |
3 変わらない |
4 やや重くなる |
5 重くなる
|
計
|
1軽くなる |
|
|
|
△1 |
|
1 |
2やや軽くなる |
|
□6 |
△3 |
|
|
9 |
3変わらない |
|
●3 |
□33 |
△6 |
△1 |
43 |
4やや重くなる |
|
|
●1 |
□2 |
|
3 |
5重くなる |
|
|
|
|
|
|
計 |
|
9 |
37 |
9 |
1 |
56 |
|
上記のように[気持ちが軽いー重い]という感情要素で、A校と同様にB校のデータからも表を作った。全体として「音楽のない条件」と「ある条件」を比べ、気持ちが重いから軽い方向へ動いたと思われる回答をした人が11人(20%)(表に△と記入)、「変わらない」人が41人(73%)(表に□と記入)、軽いから重いの方向へ動いた人が4人(7%)(表に●と記入)である。11人のうち、「音楽がない条件」の気持ちが「軽い」か「やや軽い」という回答のものは0人、「変わらない」という回答が3人、「重い」か「やや重い」という回答が8人である。
56人の「音楽のある条件での得点の和」は160点、「音楽のない条件での得点の和」は170点である。対応のあるt検定では、「音楽のある条件」と「音楽のない条件」で、感情要素の得点に統計的には有意な差が出たが、和として比較するとわずか10点の差でしかない。
「音楽がない条件」で、やや気持ちが「重くなる」と回答した9人の得点の和は、9人×4点=36点である。この9人が、「音楽がある条件」での得点の和は、1人×1点+6人×3点+2人×4点=27点である。その差は9点ある。ここでの得点の減少が、B校の気持ちの軽重で、統計的な差がでた理由と考えられる。
ウ 2校における環境音楽の働き方の考察
同じ環境音楽の効果といっても、A校とB校では、働き方が異なることがわかる。「音楽のある条件」と「音楽のない条件」を比較して、統計的に有意な差が出た主な理由は、以下の通りと考えられる。
A校では全体として[快適ー不快]という感情要素で、「音楽の有無の条件での13点の得点差」に寄与したのは、音楽のない時(通常時)「気分は変わらない」と答えた10人(10点減)と、音楽のない時「気分はやや不快」と答えた4人(5点減)と、音楽のない時「気分は不快」と答えた4人(5点減)と、音楽のない時「やや快適」と答えた1人(1点減)である。このことでA校では、得点の差に統計的に有意な差が出たのである。
それに対し、B校では[気持ちの軽い−重い]の感情要素で、音楽のない条件と音楽がある条件を比べて、「重い気持ち」「やや重い気持ち」の人が8人も軽い方向に移った(数量データ点の減少の効果)ことが特徴である。(そのうち7人は「変わらない」という気持ちにうつった。)B校で環境音楽の効果は、音楽がない通常時は気持ちが重いと感じる生徒に対し「軽い」方向に動くようにあらわれている。それが統計上の有意な差となってあらわれている。
A校はB校と比べると、中間層(音楽がないとき「変わらない」と答える人)の人に大きな数量点の減少効果が現れていることが特徴といえる。環境音楽は、B校と比べてA校では、生徒全体に少しずつ「快適」の方向に動くようにあらわれている。
環境音楽に適する一定水準の音楽が、人間に対し効果を持つなら、効果は全体的にあらわれるはずと考えられるかもしれないが、しかし、音楽により気持ちに変化が起きない生徒も両校とも70%いる。つまり音楽の効果はアンケートの結果から見ると多くの生徒にあらわれているわけではない。
A校で、音楽が鳴っている条件で、音楽に「全く気がつかない+ほとんど気がつかない」と回答したものは89人中43人である(48.3%)。同じ質問の回答は、B校では56人中11人である(19.6%)。
アンケートからみると、A校では19名(21%)の生徒に、環境音楽の「快適の気持ちの増大の効果」が現れ、B校では8名(14%)の生徒に「気持ちの重さが減少する効果」が現れているといえる。
B校では音楽の鳴る時間帯でも、教室内は比較的静かである。A校ではB校と比べて、朝生徒どうしの会話でにぎやかであり、音楽に気がつかない生徒が多い。朝の教室の雰囲気はかなり違う印象がある。B校の生徒の朝の通常時の気持ちがA校の生徒の通常時の気持ちに比べて暗いのではないかということは、以上のようなことから推定できる。
そして、音楽聴取の持つ「ホメオスタシスに向かわせる効果」が、今回の環境音楽の実施によってもあらわれたのではないか。2校の生徒の朝の気分の差の違い(朝の心理的傾向の違い)に応じてそれがあらわれたのが、今回の実験の結果ではないかとも考えられる。従って、環境音楽の効果の現れ方のA校とB校の差は、A校とB校の生徒の通常の(元々の)気分の差によるものだと推定することができる。
しかしそれが音楽の質が原因かどうかは不明である。統計的に有意な差が出た原因が、曲の質によるものか、生徒の質によるものかは、あるいはその両方が原因か、今までのデータではわからない。今後の実験調査に期待する。
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