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2章 環境音楽の効果・影響
この章では、音楽が心身に与える影響について、本論に関係する研究を紹介する。1節の基礎研究は、短時間(5分から20分)音楽を聞かせて、その前後の変化を調査するものである。長期間にわたる音楽聴取の影響の研究文献は見つけられなかった。2節では音楽療法、3節では環境音楽の主な研究を、本論の研究目的に従い概観する。
一般に音楽の力(作用、機能)は3つの面から考えられる。生理的面では、身体的変化(脈拍、呼吸、脳波等に影響)をもたらす。心理的面では、感情・記憶を刺激する。社会的面では、人との交流のきっかけをつくるなどが指摘されている。
1節 音楽の作用の基礎的な研究
(1) 音楽と人
品川嘉也は、音楽の人間への影響について、大脳生理学の立場から、次のようにいっている。(3)
「同じモーツァルトでも「アイネクライムナハトムジーク」のような長調の曲を聴けば明るい 気分になり、「交響曲第40番ト短調」のような短調では暗い気分になってしまいます。こういう 違いは先天的なようで、文化圏による違いはありません。
そして一般に音が高くなると緊張が高まり、反対に低くなると緩むようです。人間の呼吸も、 高くなる音を聞くときには自然に息を吸い、低くなるときには息を吐くというリズムを持ってい ます。ですから、音の高低によって呼吸の調整や安定の効果が期待できると言えます。このこと から、音楽には人間の心身のバランスを回復させ、人間の心身を浄化させる働きがあるといえま す。」
これは音楽の要素ごとの人間への影響に関する発言といえる。
人間が音楽をどう受け取り・認知し,どのような感情気分を持つかという点に関しては、次のような研究がある。
谷口高志は、音楽作品の持つ感情的性格と被験者の感情状態との関係について次のように書いている。(4)
「音楽作品の持つ感情的性格と被験者の感情状態とにほぼ相関関係が認められた。
また音楽作品に対する被験者の好き嫌いが,その作品の感情的性格の認知,および,被験者自 身の感情状態とどのように関係するかを調べた。ここでは,曲の好き嫌いの評定に基づいて,そ の作品に対して好意的な評価を与えた被験者と,否定的な評価を与えた被験者に分類した。そし て,この2群の間で,作品ごとに感情価や感情状態の違いがあるかどうかを質問紙法とその分析 で比較した。
その結果,ある作品が好きな場合には相対的に肯定的な感情価ならびに快感情状態となり,嫌 いな場合には逆に否定的な感情価ならびに不快感情状態となることが示唆された。」
ここで感情価とは、音楽作品の感情に関する指標である。好きな音楽だと好意的な評価を与える傾向があることを統計的に実証したことになる。
(2) 音楽の心理的作用
谷口高志は音楽による感情気分誘導効果について、次のように書いている。(5)
「意識的に音楽を聞いた場合、聞いた音楽の種類によって一定の方向に気分が導かれるだけで なく,言葉の記憶や人物に対する評価などが影響を受けることがわかっています。」
この影響の程度の強さは、状況や聞き手の状態でことなり、一概には言えないようである。
吉岡明代他は、音楽を聴くことと心理状態の変化について、次のような実験をしている。音楽を聴くことでエゴグラムが変化したということである。(6)
「エゴグラムは、人格を構成する自我の状態を測定分析する心理テストである。自我状態を親、 子ども、大人にまず分類し、さらに、批判的な親(CP)、養育的な親(NP)、大人(A)、自由な 子ども(FC)、順応した子ども(AC)の5つの尺度で総合的に判断するものである。
まず対象者を静かな部屋で10分以上安静にした状態で、エゴグラムテストをおこなう。次に 対象者が心地よいと感じる曲を選ばせ、リラックスした状態で10分間聴取(鑑賞)させた。そ の後同じエゴグラムテストをおこなった。そして2つのエゴグラムのデータを統計的に解析した ものである。
音楽学習者138名では、AC得点の低下が33%の人に見られた。音楽聴取によって抑圧して いた心が解放されたことが一因として考えられる。音楽学習者の両親では、FC得点の上昇が36 %の人にあった。音楽を聞いて、子どもの頃の無邪気な気持ちがよみがえった人が多いと解釈で きる。
従来エゴグラムテストは、数ヶ月単位のエゴグラムの変化を表すとされていた。しかし短時間 の音楽聴取で、エゴグラムパターンに影響を与える可能性が示唆された。この変化は、音楽が、 各自の本来の自我の状態に戻すように作用している可能性が示唆される。」
このような実験室における音楽聴取の実験で、はっきり音楽の心理的影響があらわれるのは興味ぶかいことである。
また松本淳子は、悲しいときにどのような曲を聴くと悲しみが減るか等の実験をして次のような結論を出している。(7)
「悲しみを今までの人生で、最も悲しかったこと、日常的な少し悲しかったことの2種類を記 述させ誘導した。その2つの群に対し、感情の評定をおこなった。音楽の聴取は、悲しい音楽と 明るい音楽の2種類を先行研究より選び、感情の評定をおこなった。その結果「悲しみの程度に かかわらず、悲しい音楽よりも、明るい音楽を聞いたときの方が、聞いた後の悲しみが低かった。 悲しみが強い場合はどちらの音を聞いても悲しさが低くなるが、悲しみが弱い場合は、明るい音 楽を聞くと悲しさが低くなるのに、悲しい音楽を聞くとやや高くなった。」
また松本の別の研究・実験によれば、次のように結論がだされている。(8)
「明るい音楽を聞くと、悲しみは低下した。また悲しい音楽でも、悲しみが強いときには悲し みが低下した。従って、悲しい音楽は、悲しみが強いときには悲しみを和らげる効果があるとい える。また特に悲しい状態でないときには、悲しい音楽を聞くと悲しい気分が生じることが先 行研究と同じに確かめられた。」
これらは、音楽聴取による心理的変化を確認するものといえる。つまり、音楽を聴くことで感情が誘導されるわけである。音楽から受ける影響には個人差があり、性格・好み・聴取態度・その時の心身の状況そして音楽の性質そのもの等が要因となって、感情に影響する。
「音楽聴取が情動に与える変化について」の高橋幸子他の共同論文は、音楽聴取が情動・感情に与える変化の先行研究をまとめ、次のように調査をまとめている。(9)
「受動的音楽療法の有用性の先行研究の中では、音楽は、精神内界の出来事の言語化の促進、 内在された怒り・攻撃性などの情動反応の緩和、気分や活動性の改善に有用であることがいわれ ています。
安静および音楽聴取前後に質問紙法で心理テストをおこない、音楽は試験者が選択した音楽と、 被験者がリラックスするために選択した音楽の2種類を用い、安静のセッションとあわせて、計 3回のセッションを設定した。
試験者が選択したのは、先行研究で、沈静的音楽とされるラベルの「なき王女のためのパヴァ ーヌ」であり、被験者が選んだ好みの音楽は、クラシック14名、フュージョン4名、ポップス 13名であった。
結果として、各被験者は、そのどちらの音楽においても同じような変化を示し、安静時との間 に統計的な差があった。つまり、「緊張ー不安」を和らげ、「抑うつー落ち込み」を元気づけ、「怒 りー敵意」を鎮め、「疲労」を軽減させ、「混乱」を少なくした。「活気」は、好みの音楽を聴取 したときのみあらわれた。
またセッション前の各情動の得点が高いものほど、音楽聴取後の得点が大きく変化し、セッシ ョン前の得点が平均あたりに位置しているものには余り変化が見られないという傾向が「活気」 以外のすべての項目で認められた。
これらの結果とその他の研究をまとめると、「音楽聴取が情動に対しホメオスタティックに働 いている」とも考えられる。音楽が生体に与える変化については、研究によりデータにばらつき があり、どう考えるか知見が一致していない状態を再考させる仮説です。」
この論文は、音楽による影響を考えるのに示唆的である。同じ音楽を同一人が聴いても聞くときが違う時なら違う影響がでることがある(例、印象が違う)。また同じ音楽でも別の人には影響のでかたに違いがでてしまう。つまり同じ曲を同じ安静状態で聞いても気分が高揚するとは限らないのである。このため音楽の影響をどう考察するか諸説あるのである。ホメオスタシスの仮説によれば、聞く人の状態を本来の状態に保つように音楽が働くということになる。ホメオスタシスとは、人が、身体内部の状態を自動的に一定の範囲の均衡状態に保つことをいう。
(3) 音楽の生理面への作用
生理的・身体的変化として以下の研究がある。
小幡亜希子他の論文によれば、音楽が気分の調整やリクレーションに有効であることは従来の研究で明らかであるとし、さらに次のような実証的研究をしている。(10)
「人工的に精神的ストレスを与え、音楽を聴取させ、生体への影響およびストレスを受けてか らの回復状態を各種指標を測定し、音楽の効果を実証的に検討した。
先行研究により、曲想が高揚的と評価された曲と、抑鬱的な曲をそれぞれ20分に編集し、体 感振動音響装置(ボディソニック)により、聞かせた。比較のために音楽なし条件の検査もした。 ストレスを与える課題の前後で各種指標が変化するか検査し、3つの条件(高揚的音楽条件、鎮 静的音楽条件、音楽なし条件)で比較した。
いくつかの生理的指標の結果から、ストレス負荷後に音楽を聴取することで、健康阻害の防止 あるいはストレスからの速やかなる回復を図ることが可能であると言えるだろう。こうした効果 は、抑鬱的音楽よりも高揚的音楽においてより顕著であることが明らかとなった。」
これは医学的な音楽の生理的効果に関する研究である。これらの結果は、先のエゴグラムに関する研究の結果(本来のバランスを回復する)とも符合する。統計的には、音楽聴取による効果には生体をホメオスタシスに向かわせる効果とリラクセーションに向かわせる効果があるといえる。
感情に影響を与えるのは鑑賞される音楽の曲想の影響が強いのか、個人の好み等の個人差の影響が強いのかについて、さまざまな研究結果がある。これらについては「補足の第2章(1)感情に影響を与える要因」にいくつか紹介する。
2章1節の諸研究は、統計的な処理によるものであり、全体的な傾向を述べたものである。従って実際には、個人差(性格、音楽の好み、聴取態度、聞くときの態度、その時の心理状態による)を、考慮できないことはいうまでもない。またこれらの研究実験は個人が音楽を聞くことの影響を集計して調べたものであり、集団が特定の場所で聞くことの研究ではない。
環境音楽は鑑賞する音楽ではなく、聞こえてくる音楽である。したがって環境音楽の研究に際して、これらの基礎研究は基礎的で予備的なものとなる。
音楽の心身への影響として、α波に関する研究が多数あるが、それについては「補足の第2章(2)アルファー波」にのべておく。
2節 音楽療法の可能性
この節では、音楽療法の実践と理論から、本論に関係するテーマをまとめて紹介する
(1)音楽療法の説明
現在音楽療法の実施は、老人性痴呆症や脳性まひ、小児まひ、自閉症、等の人を対象に行われている。音楽療法は療法であり、健常者を対象にすることは本来の目的ではない。ただ,音楽療法という名で、療法者が対象者と一緒に音楽を聴いたり唄ったり楽器を鳴らしたりすることで、対象者の心や身体を刺激し、生活をより豊かにしていくための手助けをすることを実践している団体や個人もある。どちらにしても現場(人とのかかわり)における音楽の効果についての知見が集積されているので、学校における音楽の利用に関しても参考になりえる部分をまとめる。
音楽療法は音楽を使う療法である。音楽療法の種類は、選ばれた音楽を鑑賞させる療法(受動的療法)と、歌わせたり演奏させたりするなどで、療法者との交流による療法(能動的療法)に大別される。本論では音楽を鑑賞させる受動的療法についてまとめる。
(2)同質の原理とカタルシス
鑑賞させる音楽療法は、音楽の持つ情動喚起効果を利用して、ストレスを低減したり、リラクセーションを誘導することが基本となる治療法である。
音楽療法の実践家が音楽を選ぶとき、効果が出るように考える基準が同質の原理である。品川嘉也は同質の原理について簡単な説明を以下のとおりしている。(11)
「心理状態の改善のためには、暗く沈んだ気分の時に、いきなり明るい音楽をかけるのはかえ って逆効果です。暗い音楽で気分を同化させてから、明るい音楽に切り替えます。これが同質の 原理です。これを医学的に利用したのが音楽療法です。」
特定の感情が聴取者に一杯になったとき、カタルシス(心の浄化)がおき、その感情が排出される。音楽療法により、日ごろ心に鬱積していたそれらの感情を放出させ、心を軽快にするのである。
(3)心理的効果について
山松質文が、音楽療法に従事している精神医学者たちの指摘した音楽療法の心理的効果を次のとおり紹介している(12)。
「(ア)音楽が人の注意を喚起し、持続させることから、憂うつを生む考えを追い出す
(イ)音楽の気分を変化させる特質によって、憂うつな感情を、喜びや意気揚々とした感情に おきかえる
(ウ)内的緊張や葛藤を解消する
(エ)リズムの活動により筋活動がおこり、悪い空想から解放し、周囲の事物に注意を向ける」
つまり音楽療法を実践する医学者によれば、音楽療法の効果の存在自体は明らかなのである。
ジャーナリストの観点から、『アエラ』編集部の宇賀陽弘道は音楽療法について次のように書いている。(13)
「心療内科の開業医である牧野真理子さんは、大学病院の勤務医だった十年ほど前から患者五 百人ほどのデータを取り続けている。筋電位、皮膚温度、脳波に血圧、脈拍など。その結果を見 ると、好きな音楽を聴くと皮膚温度は上昇し、筋電位は下がる。脈拍や血圧は安定する。どれも、 心がリラックスしたことを示すデータだ。
『好ましい効果があることは間違いない。患者本人の自覚とは別に、体はちゃんと反応するん です』牧野さんは、音楽療法を摂食障害(過食症・拒食症)など心身症治療に使って効果を上げ ている。」
ここでは患者本人の自覚がなくても音楽の効果はあると、医者が臨床的に判断していることに注目したい。
そして実践する立場では、『第五の医学 音楽療法』で田中多聞が次のように述べていることに留意したい。(14)
「薬にもいろいろあるように、音楽も使い分けなければならないし、名曲などを患者に聴かせ て対話を重ねていくやりかたをしている。鑑賞させるといっても、単なる鑑賞は療法とは言えな い。」
以上のように、音楽療法は可能性の問題ではなく、現実に実践されている現象である。音楽療法は、社会が複雑化するにしたがい、ストレス対策としても注目を集めている。
(4)音楽療法による教育的効果
この節では、音楽療法で、教育に関係するものを2つ紹介する。
『音楽療法最前線増補版』で心療内科が専門の筒井末晴は、梅田病院・心療内科の山本晴義が不登校治療に音楽療法を使い治療効果を上げていることを紹介している。それによると山本は過去2年間に12例の、言語的な話し合いなどでは限界がある不登校の10代の患者に、音楽療法を実施し、復学した者が半数以上であったという。以下に長いがそれを引用する。(15)
「日本バイオミュージック学会で臨床報告されております(16)ので、紹介しますと、症例は、 中学2年の女子。夏休み明けより頭痛を訴え、休みがちとなる。近医を受診し、身体面での精査 を受けましたが、器質的な異常は認められず、養護教員の勧めで梅田病院の心療内科を受診して います。
山本先生の所見では、体格・栄養状態ともに良好で、表情は緊張はしているものの、穏やかで あり、精神病的印象はなかったということです。病状を聞こうとするも、本人はほとんど話さず、 付添いの母親が心配そうに経過を説明する状態で、前医の検査結果に加え、理学的所見からも特 記すべき器質的な疾患はなかったということです。
引き続き、心理面でのインタビューをしておりますが、患児は質問にあまり答えず、母親が代 わりに患児の性格(内弁慶で、わがまま)や学校での出来事(仲間外れにあったことや担任に叱 られたこと)などを話しています。その間、患児はふてくされの態度を示したために、話題を患 児の得意なことに移すと、母親が「この子は学校も行かずに、アイドル歌手の歌ばっかり歌って いる。本当に頭が痛いのかどうかわからない」と歌が好きなことを紹介しました。そこで、最近 の音楽や歌手のことを患児に親しげに質問すると、得意そうに話し出したとのことです。
患児とラボール(信頼関係)が付き始めたところで、「先生のところに、すごい音楽の器械が あるんだよ。椅子そのものがスピーカーで、体全体で音楽が楽しめるんだ。体験してみない」と 誘ったところ、患児は興味を示し「ぜひ、聴きたい」とニコニコした表情で応答しています。患 児が体感音響装置を体験中に、母親から社会・心理面の病歴を聴取し、転換反応(ヒステリー) による心因性頭痛と診断して、病態と治療方針の説明をしています。
治療後、母親は「あんなに楽しそうな表情は、最近はなかった」と印象を語り、患児は「また 聴きたい」と要望したといいます。そこで、山本先生は「今度は、あなたの好きな歌手のカセッ トをもっていらっしやい。毎日でもいいから音楽を聴きに病院にいらっしゃい。お薬は出しませ ん。あなたの頭痛には音楽が一番ですね」と音楽療法の動機づけをした。
その後、過二回の割合で、体感音響装置を聴きに受診しています。診察では、アイドル歌手と その曲目を話題とし、頭痛や学校のことには触れなかったが、2週間後には、ほとんど頭痛はな くなり、登校にも抵抗を示さなくなったということです。
山本先生はこのレポートの[要約]として、「プライマリケア医(地域の医者)の立場で心身 医療を実践しているが、最近、不適応症状を呈し当科を受診する学童患者が増えている。この様 な年少患者に、言語的なアプローチだけを実施しても限界があり、非言語コミュニケーションと して、音楽療法を活用することにより、治療効果を上げている。過去2年間に、15例の10代の 患者に体感音響装置を実施し、このうち不登校傾向を示していたものは12例いた。彼らは身体 症状に対するとらわれが強い半面、医療に対する不安や不信感も抱いており、通常の診療(問診 ・診察・検査)では、器質的に異常ないという結果だけで、治療的には何ら進まなく、初診で治 療中断になることが多い。
この様な学童患者に対し『好きな音楽テープを持って、病院に遊びにいらっしゃい』という誘 いで、治療関係が形成され治療効果が上がることがある。」
教員にとって、鬱病等の病気以外が原因で不登校になった生徒との間で、信頼関係を築くことが困難な場合がある。学校というシステムのなかでは難しいこともあるだろうが、参考になればと思い紹介した。
もうひとつ、データは古いが、『音楽心理学』で、梅本堯夫は、千葉少年鑑別所の事例を以下のように紹介している(17)。
「千葉少年鑑別所の山川,佐竹,原山,酒川,樋口は,評価のきまったクラシックの中から理 解の幅の広いと思われる曲を選び,毎日昼食後60分ほど,1週間連続して同じ曲を少年たちの 居室に放送するという方法を考えた。1週間ごとにその曲について自由形式で感想文を書かせ,72 週分,のベ2535名の文章を分析してその効果を判定している。
感想文を分析した結果,クラシックにはとんど無関心であった非行少年が,70%まで聞かさ れた音楽に対して肯定的態度を示したのが注目される。肯定的態度や反応には,情動反応,過去 の想起,印象の叙述などを含んでいる。しかも,このような肯定的反応に結びついて,しばしは, 反省や後悔の気持をのべたり,将来の決心をのべたりしている。
もしこの音楽がジャズであれは,彼らは収容される以前の非行を行なっていた時の環境を想起 し,その時のムードに酔い,その時の自己に退行したかもしれない。ところが,彼らが恐らくま ともに聞いたこともないようなクラシックを毎日反復して聞かされ,1週間続けて聞くことによ って,難解と思われた曲にも熟知感が起り,曲の表現を理解できるものも出てくるであろう。ク ラシックから受ける感情は彼らのあまり経験しなかったもの,あるいは,悪い自己になる以前の 純情な時の感情であろう。少年の中には,幼ない時のことや,両親のことを想起するものもいた というが,この感情の芽を育ててやることこそ,矯正にとって重要なことではなかろうか。その 意味で非行少年にクラシックを反復してきかせるという試みは意義あるものであろう。ただ,そ の効果の判定に,より厳密な分析方法の用いられることが望まれる。」
この事例は、30年以上前の資料であるが、音楽の情操教育についてつまり心の教育について示唆する点があると思い紹介した。
(5)音楽とコミュニケーション
なぜ音楽は人間関係形成に効果があるのだろうか。『ストレスと予防医学のための応用音楽療法』で渡辺茂夫は次のように説明している。(18)
「音楽は非言語性のコミニケーションチャンネルとなる。言葉によって傷ついた心は、言語に 対して異常な防衛反応を示したり、いかなる言語誘導も受け付けぬよう心を閉じガードしたりす る。歪曲した受容により、故意にコミニケーションを拒絶したりするために容易に治療が進行し ない。
音楽は、このような場合に非言語性のコミュニケーションのチャンネルがバイパスとして開か れ、治療のための有効な情報の導入を可能にする。音楽は直接情動に作用を及ぼす効果を持つか らである。ただし、ある音楽がある人にとって過去の好ましくない記憶と結びついている場合も あるので、音楽の選択は注意深くされる必要がある。」
これは医学の観点からの話であるが、音楽を通してのコミュニケーション改善の可能性は、学校においてもあると考える。
3節 環境音楽の効果の研究
この節では、環境音楽=BGM(background music)についての研究を紹介し、学校における環境音楽の先行研究を紹介する。
(1)環境音楽の定義・説明
「メディアの変容と『環境音楽』」の小川博司は環境音楽を次のように定義している(19)
「BGMは、はじめから音が聞き手の周辺に漂うように仕組まれ(周辺的聴取)、仕事や買い 物をしながら(並行聴取)、音楽にたいして注意を集中することなく(散漫聴取)、聴くスタイ ルのために創られている音楽なのである。」
苧坂良二は、環境音楽の定義として「簡単にいえば、演奏または鑑賞以外の目的で、流されている音楽」と、書いている(20)。
桜林仁は、「環境音楽も、精神衛生的な意味での一種の予防療法として活用される音楽療法なのである」(21)としている。ともかくそこにいる人の行動に邪魔にならないようにされた音楽なのである。
映画のBGMは映画の効果を高めるために、創作されたものであるが、音量からいって、周辺的聴取であるか疑わしいものもある。駅の電車の発車時の音や、電話の保留音なども環境音楽かどうかいろいろ考えられるが、本論の目的にそって研究の対象から外す。また音楽創作者の立場や、サウンドスケープの視点から、さまざまな提案や音楽の創作がなされているが、本論ではふみこまない。環境とは何かということもいろいろ考えられるが、学校という場における音楽をテーマとするので、ここでは踏み込まないこととする。
苧坂良二編の『新訂環境音楽』(22)によれば、近代における環境音楽の初期の様子が次のように説明されている。
「アメリカでは、1920年代にラジオやレコードが登場し、BGMが広まることとなった。1930 年代ミューザック社による音楽配信サービスが成長し、事業所や生産工場で広まった。効果につ いての科学的な研究も始まった。資本家にとって、音楽が有力な勤労意欲増進作の一つであると 考えられ、また従業員がわからも受け入れられたため、発展したものである。
1937年のイギリスの産業健康調査局の研究では、環境音楽は、繰り返し作業などの単調な作 業に起こる倦怠感を緩和し、仕事をより楽しくする手段となる。その結果ほとんどの場合、生産 が増加される結果になるが、ならなくても、従業員が得る利益を考えれば十分活用する価値があ る、と結論している。」
新しい音楽記録媒体の発明による音楽の大衆化の時代に、工場生産現場で環境音楽が広まったのである。
(2)音楽配信会社で使われている環境音楽の特徴と傾向
環境音楽にはどのような曲を、どのような音で、いつどのくらいかけるのかが環境音楽配信会社などで研究されて、利用されている。前掲の『新訂環境音楽』には以下のように記されている。(23)
「環境音楽を実施するにあたって最も重要なことはそのプログラム編成であろう。目的にあっ た適切なプログラムがされなければならない。一般にいえることは、
(1)作業者の一日の標準的な疲労曲線(あるいは能率曲線)にあわせて、これと反比例した音楽 的刺激をあたえるようにする。
(2)作業の単調さを補うように、適当な楽器編成、テンポ、リズムの変化をあたえる。ただし選 曲にあたって、急激な音量の変化や速度の変化によって、作業者を混乱させたり、作業の手 をとめさせるようなことがあってはならない。緊張感をもたらす不協和音が少ないものがい い。
音の再生レベルは、その環境の騒音レベルをよく調べて決めなければならない。騒音レベルが ほぼ80デシベル以下の場合は、これに対して3から5デシベル大きい音量で流し、騒音レベル が80デシベル以上の場合は、これよりも小さい音量で流すとよい。必要な会話などの妨げにな らないように,かなり小さく抑えられている。
音色もあまり激しく変わらない方がよい。金属的な音色は使われず、深みのある曲が使われて いる。
一般に、歌詞のある曲はさけます。
音程については、一般の音楽が0サイクルから15000サイクルの音によってつくられていて、 これが結構耳ざわりなのであるのに対し、100サイクルから6000サイクルあるいは8000サイク ル)という比較的刺激の少ない音の組み合わせでつくられている。
音を意識させないために、音の方向を平均化する必要がある。スピーカーの配置は、30平方 メートルあたり1個の割合で、天井など人目につかないところに取りつけるのが理想とされてい る。
工場で労働時間が8時間の場合、音楽を流すのは最大限2から3時間とするのが、もっとも有 効である。音楽の効果は、奏せられる音楽の量に比例して、2から3時間までは増加するが、そ れ以後は、音楽がさらに奏せられるにつれて減少する。
環境音楽の実践には技術的にも細かい配慮が必要です。」
また谷口高志は環境音楽の特徴を次の通り書いている。(24)
「リズムや旋律が奇異でなく、緊張感をもたらす不協和音が少ないもの。テンポは比較的ゆっ たりし、適度な変化もあるもの。再生レベルのレンジも大きくなく、強弱の変化が急でないもの。 そして再生レベルは必要な会話などの妨げにならない程小さくしてある」
BGMは気になるほどうるさくてはよくない。BGMは騒音にならないようにおこなわれるべきである。ところが何が騒音かという判断には、個人差がある。音が2つ以上の発生源を持っていたりすると、音を制御することはできない場合がある。うまくうち消しあってくれればよいが、そうでないとBGMが騒音公害ともなってしまう。
『音楽の魔力』で山松質文 は、実践上の注意として次のように書いている。(25)
「その曲を知っていても知らなくても大差ないが、メロディを主にした曲に、軽いリズミカル な曲を混ぜるとよい。一般的に、騒がしい曲は日本人には好まれないし、イライラするので適当 ではない。」
環境音楽配信産業の場合は、『新訂環境音楽』によれば、綿密な現地調査をし、騒音の周波数測定などの諸調査をする。実際にその場にいる人がどのような特性を持ち、どのような態度で何をしているかを調査しなければ、環境音楽と称する音楽が、かえって問題を発生することもあるとしている。(26)
その他にも『環境音楽序論』で作曲家の助川敏弥は、要旨次のように書いている。(27)
「オフィス内環境音楽は繰り返して聞いて抵抗感のない音楽でなければならない。曲の性質と タイプはクラシック音楽の美学の流れを踏むものがよい。数百年にわたってその価値を保ってき た音楽は、膨大な数の人と場の選別に耐えたものである。ただし、音楽の人間への作用は相対的 なものである。好む音楽と好まない音楽がある。準備としての入念なその場での意識調査が必要 である。同一の音楽を継続使用することは飽きがくるので、一定の期間ごとに音楽を変えること が望ましい。音楽効果の条件性により音楽を変えることにより気分を一新することができるから である。」
環境音楽にはずいぶん条件が付くように感じるかもしれないが、耳は拒むことができないので、その分よく考えなければならない。
(3)目的と効果
現在では、生産工場とは別に商業施設やホテルや病院など、さまざまな場所でBGMが使われている。これらのBGMの目的について、谷口高志は、考えられることとして3つにまとめて次のように書いている。(28)
「ア. まわりのざわめきや微弱な機械音をうち消す(聴覚的マスキング効果)
イ. 緊張を緩和したり不安を和らげる(弛媛・沈静効果)
ウ. 眠気や飽きが生じないようにする(喚起・覚醒効果)
エ. 落ち着きや高級感を醸し出す(イメージ誘導効果)
このうち,イとウは,反対方向のはたらきではあるが,ともに感情(気分)の誘導に関わるも のですから,BGMのはたらきは,@聴覚的マスキング,A感情誘導,Bイメージ誘導の3つに しぼることができるだろう。」
以下にこの項目に沿って、研究を紹介したい。
ア マスキング効果研究
大学の5,60名参加の講義式授業に、実験的にいろいろな環境音楽を流して効果を試そうとした東海大学のP教授は、ご自身の経験を次のとおり話してくれた。(29)
「まじめな生徒が、他の生徒のおしゃべりを聞こえなくさせるために音を大きくして欲しいと 評価した。また音楽が鳴ることを評価する声も結構あった。しかし、他方1人2人くらい音楽が いやだという学生がいて、音楽を流すことを続けることができなかった。「バロック音楽だと気 分が暗くなる」という学生が必ずいた。学生の好きな音楽だと、学生が音楽に集中してしまい、 環境音楽でなくなってしまう。双方にじゃまにならない音楽を模索したが、なかなか難しかった。」
授業中に環境音楽をかけることは、本論では想定しないことにする。
山松は、日本の環境音楽の効果に関する研究(騒音のひどい職場におけるマスキング効果)を次のように紹介している。(30)
「日本鋼管の相当騒音のある職場でBGMをやると,かえって職業性難聴になる比率が少ない, という統計が出ている。このようにBGMは職場の騒音が問題である場合に効果的であることが 示される。」
また同書で、山松は北村音壱の研究結果を次のように紹介している。(31)
「BGMは人間の聴覚のマスキング(おおいかくし)効果を利用している。快よい音楽で騒音 を心理的にマスクしてしまう。しかも,騒音の大きさが65フォン以下の場合には,騒音よりも2 〜3フォン大きいBGMを流すと物理的にも騒音はマスクされ聞こえなくなる。実際には65〜90 フォンの騒音にも使われているようだが,この場合には騒音レベルと同じか,やや低めのBGM を流すと騒音の不快さは心理的に減少しようが,騒音は消えない。」
このように、マスキング効果は、広く効果が認められている。
イ 感情誘導効果
『新訂環境音楽』から環境音楽の場にいる人たちの音楽に対する印象を調べた研究を一つ引用する。(32)
「管理職や経営者は環境音楽導入の効果をどのように評価しているであろうか。アメリカ経営 管理協会人事研究部会が、全米各地の規模も業種もさまざまな企業336社を対象にオフィスの音 楽についての調査を1989年に実施した。音楽演奏の効果として、従業員のやる気・モラールが 高まると答えたのが88.0%、単調感が減ると答えたのが87.3%、ノイズを押さえると答えたの が85.3%もいた。
サザン・ベル・テレホン社の幹部は、「環境音楽の演奏により社員の私語が29%減少し、積極 的な仕事ぶりが目立つようになった」と報告し、ニュージャージー州ムーアズタウンのRCAか らは遅刻や欠勤の32%減少、オハイオ州パンダリアの木工機械メーカーからは社内の人間関係 の改善が、それぞれ管理職を対象とした環境音楽の効果調査で確認された。」
これは管理職や経営者の印象を尋ねたものである。他の原因があるかもしれないし、これだけでは厳密な研究かどうかわからない。最近では、谷口高志が環境音楽の研究について次のように述べている。(33)
「環境音楽の感情誘導効果は、実際にどれほど効果があるかを厳密に検証した研究はほとんど ない。音楽が一定の感情を喚起することは多くの実験で確認されているが、それらの音楽はBGM とは言えない」
なかなか厳密な実験ができないから、それが必要だというわけである。被験者の音楽的経験やいろいろな環境をきちんと揃えて比較することは困難で、厳密な実験ができていないようである。
ウ イメージ誘導効果
場所に落ち着きや高級イメージを醸し出す効果については、今までそのような実証的研究文献は見つけられていない。レストランで、顧客の満足度を高めたなどのアンケートの資料はある。
エ 生産性効果研究
生産性向上を肯定した研究を『音楽心理学』の梅本堯夫が次のように紹介している。(34)
「スミス(Smith,H.C.1947)は,ラジオ組立て作業をしている工場で12週にわたり環境 音楽を流してその効果をみたが,結果はつぎのようにまとめられる。
1)生産はいろいろの条件のもとで4%から25%まで増加した。平均して昼間の生産増は2%, 夜間は17%の増加を示した。
2)最大の生産増進効果をあげる環境音楽の時間は,昼間では作業時の12%,夜間では作業時間 の50%のところにある。
3)セミクラシック音楽の量を増加すると生産は減少するが,声楽の量を増加しても生産は減少 しないという結果がみられた。作業のはじまりはマーチよりもワルツの方がよい。
4)生産の増加は音楽の演奏される時によって変わるが,生産が最低の時にもっとも効果がある。
5)調査によって示された作業員の音楽に対する欲求が強ければ強いほど,音楽の生産に対する 効果は大きい。またそれまでの生産が低いほど音楽は効果があり,作業中の会話を許されてい る職場ほど生産が音楽によって上昇した。
6)夜間の作業で音楽の効果が最も大きいことがわかったが,これは夜間作業員の音楽に対する 要求が大きいことと対応している。また音楽の種類によって効果が異なるのも,それらの音楽 に対する作業員の要求と対応している。」
ところが、「BGMが流れるから生産性が上がる」という効果は現在の専門家の間では、認められてはいないようである。山松質文も、BGMの生産性向上効果について以下のように書いている。(35)
「背景音楽の効果は作業能率の上には顕著な効果は期待されないといわれており、むしろ主要 なのは、作業者の志気の向上にあるといわれている。そのため繰り返し作業では一般に生産を改 善せしめる。」
学習に対するBGMの効果を調べた研究もある。しかしここでも厳密に条件を揃えて比較することは難しい。最近の研究は今回は見つからなかったので、本論では紹介しないことにする。
その他にBGMによるコミュニケーションの促進や、会話がない気疲れを防ぐ効果などを指摘する文献(感想・意見・直感・体験談などを書いたもの)もあるが、今までのところ実証的な研究論文は見つかっていない。
音楽の影響を人間以外で実験し、効果があるため実用化されている事例が、数多く紹介されている。そのなかで、生物によい影響があることを示唆する研究を、「補足第2章(3)」に載せておく。
(4)学校における環境音楽の研究
この節では、学校における環境音楽についての2つの資料を呈示する。
松本みき他の「音楽を用いた保健室環境改善の取り組み」は、小学校・中学校・高校・養護学校の保健室に環境音楽を活用し、心理的環境を調え保健室指導の改善をはかった研究である。以下に要点を引用する(36)。
「本調査はよりよい保健室指導につなげることを目的に保健室でクラシックを中心にした音楽 を一定期間流し、来室する児童・生徒に対するその効果をみたものである。対象児童・生徒にこ ころの安定度等に関するアンケートをおこなった結果、音楽によって多くの児童生徒は心のリラ ックスや安定を感じていた。また、保健室という空間において生徒とのコミュニケーションの成 立が音楽によってより容易におこなえることができると考えられた。」
「音楽の効果を調べるため、「保健室の音楽についてどう思いますか」という問いをたて、3 つの感情要素で回答させた。[快ー不快]の評価は圧倒的に「快」と評価するものが多かった(53%)。 しかし[気持ちの重さー軽さ]の評価は「普通」と回答した対象者が最も多く、続いて「軽」と回 答した対象者が40%であった。また[安らぐー安らがない]の評価では「安らぐ」が55%であり、 「普通」が39%であった。・・・従って、保健室の環境整備の一環としての音楽の導入という点 に関しては一定の評価を与えることができるものと考えられる。」
「音楽を保健室に導入した目的は、来室する児童生徒とのコミュニケーションの確立、とりわ け、コミュニケーションに問題がある児童生徒とうまく対応する手段として活用するためである。 人と人とのつきあいにとって、心のリラックスがコミュニケーション確立の第一歩である。・・ ・クラシック音楽は対人交流において非言語的にコミュニケーションを向上する手段の一つとし て意味あるものと思われる。なによりも、悩む子どものために何かできることはないだろうかと 積極的に工夫する養護教諭側の姿勢こそが児童生徒とのコミュニケーションを成立する上で重要 な役割を演じ、欠くことのできないものであると考えられた。加えて、養護教諭も音楽を聴くこ とになり、結果として気持ちが楽になり、よりよい状態で生徒と接することができた点も音楽の 効果として重要であった。」
次章に述べる私の調査法構想にあたって、この論文はおおいに参考になった。
栗林文雄は、桜林仁について次のように紹介している。(37)
「桜林は、日本人として最も早く音楽療法についての書籍『生活と音楽』(1962)をあらわし、 長らく我が国の音楽療法を指導してきた。」
その桜林仁は、日本の学校音楽について、次のように述べている。(38)
「人間の生活は、個と群れから成り立つもので、音楽もそれぞれに答える機能として育てられ てきたが、学校音楽はとかく、(明治以来ー引用者注)集団統制のミリタリズムに傾斜しがちで あった。
文明文化の本質は拘束性にある。しかし、高度産業社会は、拘束過剰環境を生み出し、人々は 拘束ストレス症という現代病に脅かされている。学校生活もこの集団拘束症を克服して、主体性 ・自発性を尊重する音楽療法を導入して、生き生きとした自己実現教育の場を築かなければなら ないし、またその技術を習得した人材を育てなければならないだろう。」
また桜林仁は『心をひらく音楽』で、学校における音楽の療法的活用を主張している。桜林は登下校時と休み時間・昼食時間にBGMを活用することを主張し、次のように述べている。(39)
「登校時、朝の勉強への導入には、静かに精神を集中させる音楽が必要であり、下校時には、 むしろ開放的で明るいリズミカルな音楽が好ましいであろう。
そして、授業の間の休み時間は、授業終了の開放性から授業開始の集中性へと、相対立する性 質の音楽を継時的に結びつける必要がある。静かで精神を集中させ易い音楽に移行することは、 次の授業時間の開始を予告するサインにもなるであろう。
また、昼休みの昼食時は、ゆったりと安定したリズムで明るいムードの食卓音楽によって、よ く噛み、安定した消化反応を誘発させる配慮が望ましいことはいうまでもない。」
この文脈では、環境音楽も音楽療法の一種として考えられていることに注意したい。はっきりと環境音楽を学校に活用するべしと主張しているので、注目される。
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