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1章 問題の所在と対策の方向
1 はじめに
全国的には、主にマスコミの影響で、中退やいじめ、不登校が教育の大きな課題として注目を集めている。高校に事情を絞ると、生徒指導の中心テーマが学校によって違うことは、研究会などで交流するとよくわかる。学校の実情が大きく違うのである。例えば埼玉県の公立高校中途退学者数の統計(1)によれば、平成12年度の県立高校(全日制)全体で、退学者数が3935名で、在籍生徒数に占める割合は、2.84%である。しかし入学して3年間の中退率が30%を超える学校からほとんど0%の学校まであることは、教員の間では、周知の事実となっている。そして、中退率が高い学校では、生徒指導上の問題も多い傾向にあることもまたよく知られている。
本論は、このような生徒指導上の問題が多い高校における生徒指導として、従来の方法に加え、環境音楽をいかした生徒指導の可能性を論じるものである。
生徒指導上の問題が多い高校における生徒も実は多様であり、一概に規定することは慎まなければならない。このような高校では、高校生の問題行動として目立つものもあるが、教員として本当に心配なのは、そのような事件や低学力ではない。彼らのうち多くの者が「俺は成績が悪いからばかだ」という意識を持ち、不本意なままで高校に入学し、「俺なんか勉強したってしょうがない」という誤った考えのもとに無気力でいることである。 問題行動の背後にはこのような自己肯定感の低さや、「易きに流れ」てよいという甘えがあり、「自ら学び課題を解決していく」方向から大きくずれる傾向がある。このことは問題行動を起こさない生徒にもかなりあてはまる。
このような生徒には特に、新学習指導要領の総則の「教師と生徒の信頼関係及び生徒相互の好ましい人間関係を育てるとともに生徒理解を深め,生徒が主体的に判断,行動し積極的に自己を生かしていくことができるよう,生徒指導の充実を図ること」という考えが、重要になってくる。好ましい人間関係を作ることが、生徒指導上の問題が多い学校における生徒指導の重大ポイントである。
2 従来の対策の限界
生徒指導上の問題が多い高校では、校則違反を理由に毎年多くの指導措置を生徒にだす傾向があるが、問題行動の再発を繰りかえす生徒もいる。また生徒が学校に期待しないで、自分の状況に開き直っている場合、表面的にはともかく、言語的な指導だけで説得・指導することが困難な状況もある。精神状態が不安定になって、問題行動を起こす生徒に対して、道理を持って諭してもあまり効果はない。学校に問題行動が多いと、教員はそれへの対処で忙殺される。そのような状況では教員と生徒との信頼関係を作るのはたいへん困難である。問題行動に対し指導を強めても、生徒は学校に魅力を感じられず、中退も増えていくというジレンマの中に、生徒指導上の問題が多い学校はあるといえる。また問題行動を起こさなくても、登校しても勉強意欲がなかったり、教員の話を聞く気持ちにならない生徒もいる。このような「甘えた気分」が生徒集団に広がってしまうと、生徒指導の困難は倍増してしまう。
3 予防的な環境改善
事後処理的な指導に追われるのではなく、予防的な生徒指導の取り組み方法が必要である。また1対1のカウンセリングは有効・有意義な場合もあるが、同時多発的な問題を発生させやすい生徒集団に対しては、集団相手の方法も併用する必要がある。
那須正裕は伝統的な教室における教員と生徒の物的環境について対比しながら次のように論じている。(2)
「伝統的な学校の環境は、子どもにとって抑圧的、他律的、閉鎖的、没個性的なものであり、 退屈さと不安によって埋め尽くされている。この環境は、主体的に課題を見出し、自らの力で考 え判断し、知力を縦横に発揮して解決していく子どもの育成をことさら困難にするだろう。」
さまざまな環境が人間関係や行動や心理に影響を与えていることは、心理学の基本である。学校現場の環境も、教育活動や生徒の生活に大きな影響を与えていると考えられる。本論は、環境音楽がつくりだす環境に的を絞り、次節のように仮説を立て、1年間の研究期間を利用して研究をおこなったまとめである。
4 仮説の設定と研究目的
「環境音楽が生徒の気持ちを落ち着かせるなど、生徒の心に変化を与える。環境音楽を学校で活用すると、学校の環境と生徒指導の現状が改善される。」と仮説を立てた。その研究の第一歩として、本論では、学校における環境音楽の影響や、実践校の実態や環境音楽の方法等を研究することを目的とする。
この種の先行研究はほとんど見つけられなかったので、2章で関連領域の文献を研究整理し、3章で環境音楽実践校での調査をおこない、4章で全体をまとめた。
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