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補足
第2章(1)感情に影響を与える要因
岩永誠は、感情に影響を与えるのは鑑賞される音楽の曲想の影響が強いのか、個人の好み等の個人差の影響が強いのかについて、そのような両方の研究結果を紹介し、さらに検討して次のように述べている。(44)
「曲に対する好意的な評価が感情反応(爽快感とリラックス感)を生起する重要な要因になっ ている」
これは、曲想の要因ではなく、評価が感情を誘導することが、統計的に明らかになったということである。
さらに岩永と中嶋みどりは音楽を好みの高低で分けて、分析した結果、次のように述べている。(45)
「好まれる音楽だと音色と音楽の印象が感情気分の変化に結びつきやすく、好まれないと関係 しない。」
牧野真理子他の実験(46)では、心理的効果に与える好みと音楽の質について次のように述べている。
「自然音とクラシック音楽で構成されたCD(15分)を聞かせる受容的音楽療法を試みたところ、 必ずしも患者の好みを第一とする同質性の原理に基づいた音楽を選択しなくても、心身のリラク セーション効果が出る可能性が確認された。具体的には、健常成人10名と心療内科の患者10名と に先のCDを聞かせたところ、気分調査票から判断して、抑鬱感・不安感・疲労感が減少し、爽快 感が増加したことが、統計的に確かだと確認できた。
この曲はバッハのG線上のアリアと、パッヘルベルのカノンです。この2曲は、この10年間の 経験で多くの人に選択されたものでもある。
音楽は、例えばゆったりした曲は、弛緩的状態を生むというようなステレオタイプ的な法則化 は困難です。しかし多数の人が快いと感じる曲があることも示唆される。」
このあたりの基礎研究は、素人にはなかなか手に負えない部分もあるので、これ以上は踏み込まないことにする。
第2章 (2) アルファー波
一般には、アルファー波とは、大脳の脳波のひとつで、心身がリラックスした状態のときにでる8〜13ヘルツの波である。現代人のストレス解消法のひとつとして、大脳を刺激して、アルファー波を誘発するとされる音楽が市場に出回っている。通常覚醒時の脳波は「ベータ波」で、14から20ヘルツで振動する。ベータ波は私たちが外界での日常活動に集中するときや、否定的な感情を強く経験するときに出るといわれる。
しかしアルファー波だけで脳の活動を判断して評価するのは短絡的であるという見解もある。(前掲の品川嘉也など)これをめぐる研究はたくさんあるが、条件や人によって同じ音楽でもアルファー波がでたりでなかったりすることもあるという。
疋田京子他の「音楽が情動に与える変化を脳波測定で見る」によれば、脳波について次のように述べている。(47)
「脳波とアンケートでみると、心身の状況は脳波に大きく変化を与え、実験中も個々人で落ち 着く時が違う。」
つまり測定自体が難しい面を持っている。また「アルファー波の割合の増加の意味がまだ科学的には分かっていない」という音楽心理学者の発言などもあり、アルファー波については、これ以上本論では深入りしない。
(3)音楽振動の人間以外への効果
『クラシック音楽による心と体の健康法』で渡辺茂夫は、音楽を聴かせると、良い食品ができる例としていくつか紹介している。(48)
「人間以外にも、酵母や酵母菌がクラシック音楽を気に入っている。
うどんにはヴィヴァルディの「四季」がよい。埼玉県の高砂食品が利用している。使わないう どんに比べて腰がありなめらかだ、と評判がよい。
敷島製パンでは、イースト菌にベートーベンの「田園」を聞かせ、評判のよいパンを作ってい る。
因果関係はまだはっきりしていない。同じ生命体なので、人間が聞いて心地よく感じるものは、 すべての生命体も同様に気持ちよく(?)感じるのでしょう」
小松明は音楽振動を振動エネルギーに変えてワインの発酵比較実験をおこなった。次のように説明している(49)。
「乳牛に音楽を聞かせると、乳がよくでる話もある。農林水産省の畜産試験場の実験では、数 %の増量が認められている。
音楽を聞かせるのではなく、トランスデューサという機械で、音のエネルギーを振動エネルギ ーに変換し、物理的な音楽振動を付与する方法でワインの発酵比較実験を、山梨県工業技術セン ターのワインセンターでおこなった。
結果は、光を利用した屈折計示度計で、糖度を比較したところいずれも音楽振動を与えた方が 糖度が低く、糖のアルコールへの転化率が2.5%も上昇していた。発酵に要する時間も2日間も短 縮していた。
びん詰めして寝かせた後、試飲官能テストしたところ、辛口の白ワイン、香りが高く芳醇であ る、等々のいい評価をもらった。
この実験には再現性がある、ただどうしてそうなるかというメカニズムの理論的説明となると、 まだ十分ではなかった。
最近の研究では、うまい水の分子集団の動きは早く、小さい分子集団(クラスター)の割合が 多いことがわかってきている。この分子構造は、比較的小さな振動エネルギーで分子集団が小さ くなることがわかってきている。音楽振動は、時々刻々と周波数も振幅も変化する。一定時間後 には広い範囲にわたりムラのない振動効果を与えることができる。
音楽振動により、水の分子集団が小さくなると、分子活動が活発になり、活性化された状態に なる。水の密度が高まって、分子間に入り込んでいる空気が少なくなり、嫌気性の酵母菌の活動 が活発になって、発酵期間を短くした。また振動による疑似熟成の効果と、水の分子集団がさら に小さくなったことによって、味をよくしたと考えられる。人体の60%も水である。
音楽を聴かせるというとムード的にとらえられやすいが、音ではなく、振動が生物の発酵にい い影響を与えるということがわかり、新しい技術を獲得したといえる。」
聴覚神経を通さなくても、音のエネルギーを振動に変換したものが生物(主に微生物)に影響を与えているという実験結果は、環境音楽の影響を考える上でも示唆に富む。
第3章(1)音楽科目の選択の有無と気分の評価
回答者を音楽の選択のありとなし別にわけて、質問7の回答を調べてみる。はじめに質問4と質問7でクロス集計すると以下の通りとなる
|
質問7 |
|
|
|
|
|
|
質問4
|
快適
|
やや快適 |
変わらない |
やや不快
|
不快
|
聞かないのでわからない |
総計
|
音楽選択あり |
13 |
38 |
31 |
2 |
1 |
111 |
196 |
音楽選択なし |
5 |
6 |
14 |
1 |
1 |
46 |
73 |
無記入 |
|
|
1 |
|
|
|
1 |
総計 |
18 |
44 |
46 |
3 |
2 |
157 |
27 |
音楽選択の無記入1名、「聞かないのでわからない」回答のもの157名、計158名をのぞいて、度数が5以下にならないように再構成して集計すると以下の通りとなる。
|
質問7 |
|
|
質問4
|
快適、やや快適 |
変わらない、やや不快、不快 |
総計
|
音楽選択あり |
51 |
34 |
85 |
|
59% |
40% |
100% |
音楽選択なし |
11 |
16 |
27 |
|
41% |
59% |
100% |
総計 |
62 |
50 |
112 |
|
|
仮説を、「列方向の因子と行方向の因子は独立である」として、統計ソフトでカイ二乗検定をすると 「 自由度1 t-value=2.345 危険率p=0.1256」となる。判定は、「有意水準5%仮説を採択、1%仮説を採択」となる。音楽の選択の有無と質問7の回答で、人数の偏りは有意ではない。やや強引ではあるが、音楽選択の有無で、環境音楽に対する質問7の評価に、偏りはない。
同様に、質問4と質問8で再構成し集計すると、以下のようになる。
質問8
質問4
|
軽くなる+やや軽くなる
|
変わらない+やや重くなる+重くなる |
総計
|
音楽選択あり |
54 |
33 |
87 |
音楽選択なし |
8 |
21 |
29 |
総計 |
62 |
54 |
116 |
仮説を、「列方向の因子と行方向の因子は独立である」として、統計ソフトでカイ二乗検定をすると 「 自由度1、t-value=9.0545、危険率p=0.0026(イェーツの補正後)」となる。判定は、「有意水準5%仮説を棄却、有意水準1%仮説を棄却」となる。
しかし、統計的には、この再構成された集計では、仮説は棄却された(つまり独立ではないという意味)が、音楽選択の有無それぞれで、気分が「重くなる」または「やや重くなる」という回答者は4人と1人しかない。実際問題としては、「音楽の選択の有無が質問8の回答に偏りを与えている」とは判断するのには無理があるようである。
質問4と質問9で再構成し集計すると、以下のようになる。
|
質問9 |
|
|
|
質問4
|
安らぐ
|
やや安らぐ
|
変わらない+やや落ち着かない+落ち着かない |
総計
|
音楽選択あり |
16 |
32 |
38 |
86 |
音楽選択なし |
7 |
6 |
15 |
28 |
総計 |
23 |
38 |
53 |
114 |
|
|
仮説を、「列方向の因子と行方向の因子は独立である」として、統計ソフトでカイ二乗検定をすると 「 自由度2 t-value=2.4064 危険率p=0.3002」となる。判定は、「有意水準5%仮説を採択、1%仮説を採択」となる。音楽の選択の有無と質問9の回答で、人数の偏りは有意ではない。やや強引ではあるが、音楽選択の有無で、環境音楽に対する質問9の評価に、大きな偏りはない。音楽の選択の有無と質問9の回答に関連はない。
以上より、音楽科目の選択の有無が、環境音楽が鳴っているときの気分の評価(3つの感情要素)に影響を与えていると判断はできない。
第4章
(1) 全自動音楽タイマー再生のために準備する装置の例
CDプレーヤー 普通の物ではなく、タイマーと連動して再生を始める物
例 SONY CDP-XE570
CDプレーヤーを再生させるタイマー
例 SONY PROGRAM TIMER PT-D9W
このタイマーが放送卓の電源をONにするための機能を持たない場合(上記例のタイマーは機能を持たない)、放送卓の電源が時間になったときにONになるようなタイマー機器が必要で、さらに配線工事が必要な場合がある。
(2)集団への影響
桜林仁は、音楽を集団で聴くことと個人で聞くことの差違について、「音楽の持つ最大の可能性は、集団的状況において発揮される」と書いている。桜林はこの論文で、シァーズの音楽療法の理論を紹介して、次のように書いている。(50)
「適切に選ばれた音楽によって、集団行動のたいていは統制され、少なくとも影響を受けるは ずである。遅い速度、滑らかな(レガート)曲線、単純な和声、僅少な力動的変化は身体活動を 減衰または沈静し、おそらくは、思索的な活動を高める傾向のある曲性である。急速なテンポで、 分離した(スタッカート)曲線、複雑で不協和な和声、急激な力動的変化は、身体活動を増進ま たは刺激し、おそらく精神活動を減衰させる曲性である。音楽について以上のような情報をよく わきまえて活用するならば、期待された結果が集団についてはたいてい達成されるが、個人を扱 う場合には、その確実性は減少する。おそらく個人は特定の音楽または音楽一般について特有な 連想を持つことがありえるからであろう。」
集団で演奏するとか歌うとかの、個人の体験としての効果効用について、見聞することがある。今回、集団で聞くことと個人で聞くことの音楽の効果の相違についての研究を探したが、以上しか見つからなかった。集団への音楽の効果・影響について、研究を期待したい。
(3)サブリミナル研究
サブリミナル研究という分野がある。本人が意識できない刺激(サブリミナル刺激)により、サブリミナルな知覚が生じ、なんらかの影響を受けるかどうかを調べるものである。
坂元章等の『サブリミナル効果の科学』の中で、坂本は、次のように述べている。(51)
「サブリミナル効果は、強力ではないが、かといって全くないとも言えないものである。何よ りも、この効果はさまざまな条件によって大きく異なっており、単純なものではない。」
「刺激の種類にもいくつもあるが、聴覚刺激としては次のような種類がある。非常に弱く呈示 されたために、意識されない音声や、注意が向けられておらず、背景的なものとして呈示された ために、意識されない音声などである。」
「サブリミナル効果といってもさまざまなものがあり、それぞれに研究がある程度蓄積されて いる。睡眠中に呈示された刺激を学習する効果(睡眠学習効果)は、それがあくまで睡眠中の学 習によるものであるとすれば、実証されてはいない。」
「感情研究でサブリミナル単純接触効果はすでに実証されていると考えられている。これは今 まで知らなかった刺激に何度も(サブリミナルに呈示され)接触しているうちにその刺激を好ま しいと思うようになる効果である。その原因については仮説の段階である。」
「また研究分野によって、比較的サブリミナル効果の存在を指示する研究とそうでない研究が ある。結果はさらに個々の研究によって異なる。その強さを特定する要因は未解明である。」
「サブリミナル効果は確かに存在する場合があるといえるが、それがどのようなときに存在す るかどうかについては、十分に解明されていない。ただし、サブリミナル刺激が、現実場面で、 しかも行動にまで影響を及ぼす可能性は小さそうである。」
つぎに「サブリミナルテープ・CD」について、森津太子は次のような説明をしている。(52)
「サブリミナルテープは、通常の音楽の背景に、人間には聞こえない周波数の音で、「自信を 持て」等のテープの目的にあったメッセージが重ねられたものである。」
「効能として、憂うつ感解消、イライラ解消、落ち込み解消、自尊心の回復、ヒーリング、安眠、異性と仲良くなる、ストレス解消」等と宣伝され主に通信販売で取り扱われている。個人用だけではなく、業務用として売られているものもある。業務用であればそれは環境音楽として使われることになる。
森津太子は、サブリミナル刺激がなくても、期待があるとその通り見えてしまう研究例を次のように紹介している。(53)
「グリーンワルドやプラトカニスらが行ったサブリミナル・テープに関する実験も,われわれ の「期待」の効果をよく示すものとして興味深い。彼らは,被験者に「自尊心があがるテープ」 か,「記憶力が良くなるテープ」のいずれかを渡し,5週間の間,制作者が薦めるのと同じやり 方で,そのテープを聞いてもらうことで,サブリミナル・テープの効力を調べようとした。ただ し,彼らは,ここで1つのトリックを仕掛けた。半数のテープのラベルをすり替え,被験者が「自 尊心があがるテープ」として信じているものが実際には「記憶力が良くなるテープであったり, 逆に「記憶力が良くなるテープ」と信じているものが実際には「自尊心があがるテープ」であっ たりするようにしたのである。そうすることで,彼らは,サブリミナルテープに含まれるサブリ ミナル・メッセージ自体が,われわれの自尊心や記憶力に影響するのか,それとも,被験者が「こ のテープを聴けば,自尊心があがる」と信じることこそが,むしろ重要なのかを調べようとした のである。
しかし,結果は,いずれの予測にも反するものであった。被験者の自尊心は,実際に自尊心向 上のためのサブリミナル・メッセージが入ったテープを聴き続けた人も,「自尊心があがる」と ラベルに書いてあった偽のテープを聴き続けた人も,向上しなかったのである。これは,記憶力 の場合も同じであった。ところが,被験者の感想は違っていた。「自尊心が良くなる」とラベル に書いてあったテープを聞いた被験者は確かに自尊心があがり,「記憶力が良くなる」と書いて あったテープを聞いた被験者は確かに記憶力があがったと,信じ込んでいたのである。彼らは実 際には何の効果がなかったにもかかわらず,自分が信じて聴き続けたテープを確かに効果のある ものだとみなしたのである。これも,われわれの「期待」がもたらした効果である。そして,恐 らく,サブリミナル・テープが売れる背景には,このような錯覚の効果があるのではないかと考 えられる。」
また森津太子は、日本における放送の中のサブリミナル刺激の規制を新聞記事から次のように紹介している。(54)
「1995年、NHKの「国内番組基準」に、「通常知覚できない技法で潜在意識に働きかける表 現はしない」という表現が追加された。民放連の「放送基準」でも「サブリミナル的表現手法は 公正とは言えず、放送には適さない」という条文が1999年に新たに設けられた。」
したがって学校における環境音楽にこのようなサブリミナルテープを使うことには、効果の有無を別にして、倫理的にはっきり否(使ってはいけない)といえる。
ところがいわゆる「サブリミナルテープの手法」によって作られていない音楽でも、「この音楽を環境音楽として流しておけば、その店の万引きの被害額が減少する」などと言われることがある。ヒーリング音楽とよばれることもあれば、その他の名称もある。伝統的な音楽でもそのようなことを言われることがある。このような曲を個人的で意識的な聴取を目的としないで、ごく小さな音量で、環境音楽のように使われる場合がある。さきのサブリミナル刺激とは違う刺激ということになれば、違う影響がある可能性があるわけである。このようなさまざまな音楽に対して、サブリミナルな刺激を対象にするサブリミナル研究からは何が言えるのであろうか。
先のグリーンワルド等のサブリミナルテープの研究は、音楽に重ねて録音されたサブリミナルメッセージの効果を調べる研究である。サブリミナルな音楽の効果を研究したものではない。現実に流れる環境音楽は意識して聞かれる場合もあるし、意識されない場合もあるが、サブリミナル研究の立場から環境音楽の効果についての論文を探したかったのであるが、探せなかった。
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